三章 『AL作戦』

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「立てるか?」  ハンスは手を伸ばしたが、ユキはそれを握り返さない。 「ハンスは先に逃げて。私は自分のペースで行くから」  突き放すような口調だった。 「いやでも、そんなに悠長にしてられないだろ」  神徒レジーナがどうやってここへやってくるのかはわからないが、開戦からのこの短時間で各地の街へ飛び回り、二機の自走兵器を破壊しているのだ。  そこから逆算すると、おそらく退避する時間もそう長くは取れないはずだ。 「そう、だからハンスは早く逃げて。レジーナ様が来る前に」 「それはできない。ユキもいっしょに来るんだよ」 「でも……」  ハンスはいまだ伸びることのないユキの手を、自ら握りにいった。腕を引いて、立ち上がらせようとする。  とにかく今は一刻も早くここを離れるべきだ。たとえユキを引きずってでも――。  ユキは負傷していないほうの左足一本で立ち上がった。しかしすぐに表情を歪めた。よろけて身体のバランスが崩れそうになる。 「相当悪いのか……?」 「……だ、大丈夫だから」  ユキは眉を寄せながらいった。  たぶん、大丈夫ではないのだと推測する。  しかし、ユキはこの場では本音を語らないだろう。彼女の本心を悟ることはできないが、ハンスだけでも逃がそうとしているのだ。おそらく――。  ただ、退避命令が出たことは追い風だった。迷うことも、後ろめたいこともない。とにかく優先させるのは避難だ。  撤退戦が始まっている可能性もある。ゼノビア兵がどう出てくるかは未知数だが、敵の進行を食い止めながら、徐々に戦場の中心部からフェードアウトしていけばいい。  そのしんがりを勤めるであろうブレイバーよりは早く撤退しなければ、その役目を担う人員にも迷惑がかかる。
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