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最悪は先に行ってもらうしかない。
そう考えると――嫌な想像が脳裏に浮かんだ。
この街にはたくさんの負傷者がいるのだ。動けなくなった負傷者は、逃げることさえもままならない。彼らは皆、神徒レジーナの起こす戦火の犠牲になるということだ。
戦場では負傷者は切り捨てろ――。
人命を尊重し優先するアルディス軍ですら、この教えは存在している。だから、自分だけ逃げることが間違いではない。
やむを得ないことなのだ。
致し方ないことなのだ。
むしろハンスのほうが、アルディス軍の教えに背いている。それでも――ユキだけは、見捨てられない。
頭の中でさまざまなシチュエーションを想定するが、あまり良いイメージは浮かばなかった。とにかく時間がないのだ。
すると突然、付近のどこかで爆発音がした。わずかに風の流れが乱れたのがわかった。
「レジーナ様……」
ユキが呟く。彼女は首を大きく後ろに向けて、上空に視線を飛ばしていた。
ハンスもつられて顔を上げた。
そして、目を疑った。二、三度瞬きを繰り返した。
それでも見間違いなどではなかった。
その視線の先に、人間が浮遊していたのだ。白い服装に身を包んでいることだけはわかった。
あの軍服には覚えがある――。
出陣前に会話を交わした、レジーナのそれだった。
しかし、あのときに比べると、だいぶ破損が目立つ姿となっていた。神徒といえども、やはりゼノビアの兵器相手では、難なくとはいかないようだ。
レジーナの正面に、赤色の丸い光が現れた。その光はぐんぐんと大きくなり、レジーナ本人の身長をも越える巨大な円へと膨張する。
その光が、自走兵器に向かって放たれた。
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