三章 『AL作戦』

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「軍から命令が出てる。撤退を急ぐぞ」  そのブレイバーは、そういいながらハンスたちの横を通りすぎようとした。 「ちょっと待ってくれ。怪我人がいるんだ。手伝ってくれないか」  思わず、そんな声をかけてしまった。  彼は足を止めた。そして、ユキの姿を下から上へと確認した。  ハンスに支えられるユキのようすから、その重篤具合を察したらしかった。表情が一気に険しくなったのだ。 「負傷者か――。しかもパラディンの……」  後の部分は、聞き取れないくらい声が小さかった。  それから、そのブレイバーは、絞り出すようにしていった。 「――悪いことはいわない。無事な君だけでも、早く撤退するんだ。でないと、二人とも命を落とす可能性が高くなる」  先程の声の先細りは、階級が上のパラディンを見捨てることへの戸惑いからだったのだろう。 「それはそうだが、二人がかりなら、少しは早くなるだろ」  そういいながらも、これ以上他人を巻き込んではならないという心は、たしかに存在していた。微かな希望にすがったのだ。 「そんな時間はもうないんだ。レジーナ様も――どうやら限界が近いそうだ。おそらく、命と引き換えにしてでも、この一気に戦いを終わらせようとする」 「な……?」  あのレジーナの軍服の乱れは、やはりダメージの証だったのだろう。  たとえ神に選ばれた存在であっても、その身体は生身の人間だ。万物を超越したような絶対的な力を持つわけではないのだ。 「とにかく、軍は全力で撤退しろとの命令だ。それ以外は――自己責任だ」  彼は踵を返して走り去った。
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