三章 『AL作戦』

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 彼女は中指で、眼鏡を上げる仕草をする。そして微笑を浮かべた。 「残念だけど、無理に動かすこともできない彼女を、助けるだけの時間は残っていない。選択肢は二つ、一人が死ぬか、二人とも死ぬか――」  シェイラのいうことが正論だということはわかっていた。戦場では繰り返されてきたことだ。  わかっている――。  ユキの他にも、動けない負傷者は大勢いる。その彼らを尻目に、ユキだけを助けることがどういうことなのか――。  わかっていながら、やはりユキを見殺しにする選択はできない。 「シェイラさんのいう通り。ハンスは先に行って……!」  唐突にそういって、ユキはハンスの肩を引き剥がそうとした。その反動で、ユキの身体はバランスを崩した。 「あっ……」  支える間もなく、ユキは身体の横から大地に倒れる。受け身も取れていない、衝撃をもろに受けるような倒れかただった。 「い……っ……」  ユキの表情が苦痛に歪んだ。 「ユキ!」  彼女の隣にしゃがんだ。  無理だ――。  今のユキを一人にはできない。 「さあ、どうするの?」  シェイラの詰問が始まった。金縛りのように、身体が動かせなくなる。それくらいの圧力を感じる。 「もう時間はないわ。あと三十秒。――ハンスくん、あなたは未来を見たくないの?」  ユキは右脚を押さえている。ふくら脛から足首の間のあたりだ。  顔色は青白く変化していた。発汗も異常だ。やはり重症であることを隠して、気丈に振る舞っていたのか――。  もはやユキが一人で逃げられないことは明白だった。 「未来は――見ますよ。このユキと一緒に」 「綺麗事はよしなさい」  ぴしゃりと、遮るようにシェイラは口を割った。
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