三章 『AL作戦』

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「そんな未来は存在しない。あるのは、あなたが生きる未来か、死ぬ未来か、そのどちらか一つよ。さあ、選びなさい。今すぐに」  選びたくない。言葉にしたくない。どちらの回答も。  シェイラのいう通りなのだ。どんなそれらしい言葉を吐き出そうとも、綺麗事はになってしまう。  ユキを助けて自分も助かる――その希望が現実的でないことは重々理解している。  認めたくないのだ。抗いたいのだ。  二人の運命に。『ノアの意志』が定めたであろう、結末に。 「じゃあ、ユキちゃん本人に決めてもらいましょう」  そんな残酷なことを、シェイラは口走った。 「彼を逃がして一人で死ぬか、二人一緒にここで死ぬか、ユキちゃんに選ばせてあげるわ」  極悪非道な選択肢だった。どちらを選ぼうと、ユキが死ぬことを前提としている。  それでも――ユキがどう答えるか、何を思うのか、わかりきっている。  ユキはハンス一人で逃げろという。たとえそれが本心でなかったとしても――。  優しいユキは、そういう。 「さあ、どうしたいの? あなたの意志を聞かせてちょうだい」  最後通告のように、シェイラは問う。 「私は……」  消えそうな声で、ユキは呟く。しかしすぐに、その瞳に力を宿した。積年の想いを込めたような視線を、シェイラに投げつける。 「私は……諦めませんっ!」  度肝を抜かれるほどの、彼女らしからぬ、熱のこもった一撃だった。  ハンスの予想は覆された。こんなユキは初めてだ。ここまで強い自己主張をするユキは、生まれて初めてかもしれない。  自分を犠牲にしようと、他人を立てることを惜しまないユキが、自分の生を主張しているのだ。
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