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「そんな未来は存在しない。あるのは、あなたが生きる未来か、死ぬ未来か、そのどちらか一つよ。さあ、選びなさい。今すぐに」
選びたくない。言葉にしたくない。どちらの回答も。
シェイラのいう通りなのだ。どんなそれらしい言葉を吐き出そうとも、綺麗事はになってしまう。
ユキを助けて自分も助かる――その希望が現実的でないことは重々理解している。
認めたくないのだ。抗いたいのだ。
二人の運命に。『ノアの意志』が定めたであろう、結末に。
「じゃあ、ユキちゃん本人に決めてもらいましょう」
そんな残酷なことを、シェイラは口走った。
「彼を逃がして一人で死ぬか、二人一緒にここで死ぬか、ユキちゃんに選ばせてあげるわ」
極悪非道な選択肢だった。どちらを選ぼうと、ユキが死ぬことを前提としている。
それでも――ユキがどう答えるか、何を思うのか、わかりきっている。
ユキはハンス一人で逃げろという。たとえそれが本心でなかったとしても――。
優しいユキは、そういう。
「さあ、どうしたいの? あなたの意志を聞かせてちょうだい」
最後通告のように、シェイラは問う。
「私は……」
消えそうな声で、ユキは呟く。しかしすぐに、その瞳に力を宿した。積年の想いを込めたような視線を、シェイラに投げつける。
「私は……諦めませんっ!」
度肝を抜かれるほどの、彼女らしからぬ、熱のこもった一撃だった。
ハンスの予想は覆された。こんなユキは初めてだ。ここまで強い自己主張をするユキは、生まれて初めてかもしれない。
自分を犠牲にしようと、他人を立てることを惜しまないユキが、自分の生を主張しているのだ。
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