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「ハンスも私も、まだ死にません! 最後まで諦めない……逃げ出さない……泣き出さない……弱音を吐かない! ――全部あの人が――私に教えてくれたことだからっ――!」
感情的になるユキを見るのは、不思議な感覚だった。上司ともいえるシェイラ相手であれば、なおさらだ。
いや、それよりも――あの人、とは誰のことだ?
「ああ、それって」
まるで馬鹿にしたように、シェイラは言葉を吐き出す。
「もしかして、彼女のこと? ずいぶんとあなたに入れ込んでた、あのお人好しの彼女ね」
お人好し――?
おそらく、ハンスの知らない人物のことだということは、予想がついた。
「そんなひと言で語れるものではありません! あの人が残してきたことは――」
「でも、そのリーシェは、戦死した」
冷たい声が割り込んだ。
「――あれだけの力がありながら、真のブレイバーになりきれなかったのよ。甘かったからね、あの女は」
「あの人を侮辱することはっ」
ユキは叫ぶ。声が裏返って掠れた。
「シェイラさんでも許しません!」
ユキの大声――しかも激昂した大声というのを、初めて聞いたかもしれない。動けなくとも、ユキは並々ならぬ殺気を放っていた。
まさしくそれは、ブレイバーパラディンでなければ発することのできない、強者だけが持つ雰囲気だった。
彼女の味方であるハンスですら、プレッシャーを感じるほどだ。
「ふふふ。そんな、熱くならないでよね。目が怖いわよ? ――で、それが答えでいいのね? あたしの質問の答えにはなってないけど」
意地悪く、見下したように、シェイラはいう。答えなど出せないとわかっていながら、無理難題を強いてくる。
そして沈黙が訪れた。
遠くで神徒レジーナが戦っているであろう轟音だけが、重々しく胸の中に響いてくる。
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