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「シェイラさんは先に行ってください」
丁寧な口調を心がけて、ハンスは申し出た。
もう議論はここまでだ。今のユキは冷静ではない。いくら粘着質な質問とはいえ、同僚のシェイラにぶつかるほどだ。
それにシェイラにも、逃げるための時間は必要だ。
「もうそれ以上、俺のほうも、何もいうことはできません。行ってください。これは――俺たち二人で決めたことですから」
もっとも、ユキの了承は得ていないが――もう、これでいいだろう。
「そう……残念ね」
シェイラはあっさりと踵を返す。
言葉を交わさずとも、お互いの思惑が一致したのだろう。二人にまた背中を向けた。
「この戦い、アルディス軍が勝利するわ。そして今後、ノアの歴史は大きく動く――」
「――歴史……が?」
「その未来をともに見られないというのは、残念なことね」
まるでもう死ぬことが決まっているかのような物言いだった。それも仕方のないことだ。
「じゃあ、さよなら――ハンスくん」
シェイラの背中はどんどんと小さくなって、やがてすぐに見えなくなった。
吹き荒れる突風に虚しさを覚えるほど、味方はもう、ここには誰一人残っていない。彼女が最後だ。
もし、いるとすればそれは、すでに息絶えてしまった同胞たちだけだ。やがてハンスたちもそのうちの一つになってしまうのだろうか――。
「俺は、ブレイバーとして間違ってたのかな?」
再び、ユキの腕を肩に回して抱えた。ユキは抵抗しない。
「ブレイバーとしては、間違ってるのかもね。――でも、私は嬉しいよ」
ユキは微笑した。それはなぜか、とても悲しい色に染まっている。
「ねえ、ハンス……。だからこそ、やっぱり最後に私のわがまま、聞いて」
「ん?」
ユキの青白い顔がこちらを向く。もう、体力的にも限界なのかもしれない。
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