12人が本棚に入れています
本棚に追加
/310ページ
男は足を止めていた。白い軍服の一部が、だんだんと赤色に染まっていく。赤色がどんどんとその面積を大きくしていく。
「ぐ……あ……ぁ……」
男はその場にばったりと、受け身も取らずにうつ伏せで倒れた。しばらくは身体が小刻みに動いていたが、やがてそれも終わった。
そしてユキが――その男のさらに向こう側で、後追いするようにして地面に倒れたのが見えた。その手には、彼女の武器である、ライキリが握られていた。
それですべてを察知した。
「ユキ……!」
足は無意識のうちに動いていた。右足の具合に注意をしながら、ユキの身体を抱き起こした。
「大丈夫か!? 足は……」
ユキは微笑する。表情が硬いのは、視線に力がないのは、やはり極度の痛みが伴っているからだろう。
「ちょっと……頑張りすぎた……かも……」
ユキはうつ伏せに倒れたまま、顔を動かすこともなく呟いた。
声も弱々しい。もう限界なのだ。
「悪い。俺が弱いばかりに……」
口にするのも嫌になるが、それでも謝罪の言葉が口をついた。
またユキに、余計な殺生をさせてしまったのだ。こんな瀕死の傷を負ったユキにまで、頼ってしまったのだ。
もっとも不甲斐ないのはむしろそこだった。もっと敵を圧倒するだけの力があれば、武器の不利など関係なかったはずなのに――。
「折れちゃったね……」
まるで話題を反らすかのように、ユキは呟いた。
「……ああ、そうだな。長年の相棒だったけど、仕方ないな」
感慨深いものはあったが、今はそれどころではないことも同時にわかっていた。
「それはいいから、早く逃げるぞ」
思わぬタイムロスだった。一刻を争う無駄な時間だ。そういう意味では、あの男の目的は十分に果たされたといっていいだろう。
最初のコメントを投稿しよう!