三章 『AL作戦』

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 男は足を止めていた。白い軍服の一部が、だんだんと赤色に染まっていく。赤色がどんどんとその面積を大きくしていく。 「ぐ……あ……ぁ……」  男はその場にばったりと、受け身も取らずにうつ伏せで倒れた。しばらくは身体が小刻みに動いていたが、やがてそれも終わった。  そしてユキが――その男のさらに向こう側で、後追いするようにして地面に倒れたのが見えた。その手には、彼女の武器である、ライキリが握られていた。  それですべてを察知した。 「ユキ……!」  足は無意識のうちに動いていた。右足の具合に注意をしながら、ユキの身体を抱き起こした。 「大丈夫か!? 足は……」  ユキは微笑する。表情が硬いのは、視線に力がないのは、やはり極度の痛みが伴っているからだろう。 「ちょっと……頑張りすぎた……かも……」  ユキはうつ伏せに倒れたまま、顔を動かすこともなく呟いた。  声も弱々しい。もう限界なのだ。 「悪い。俺が弱いばかりに……」  口にするのも嫌になるが、それでも謝罪の言葉が口をついた。  またユキに、余計な殺生をさせてしまったのだ。こんな瀕死の傷を負ったユキにまで、頼ってしまったのだ。  もっとも不甲斐ないのはむしろそこだった。もっと敵を圧倒するだけの力があれば、武器の不利など関係なかったはずなのに――。 「折れちゃったね……」  まるで話題を反らすかのように、ユキは呟いた。 「……ああ、そうだな。長年の相棒だったけど、仕方ないな」  感慨深いものはあったが、今はそれどころではないことも同時にわかっていた。 「それはいいから、早く逃げるぞ」  思わぬタイムロスだった。一刻を争う無駄な時間だ。そういう意味では、あの男の目的は十分に果たされたといっていいだろう。
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