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「知ってたんだ? ――すごいエネルギーだね」
そして熱量だ。百メートルか、二百メートルか、いや、それ以上か――。
とにかく常識的な魔法の効果範囲からは、十分に離れているはずなのだが、その光が放つ熱は、無慈悲にも肌をジリジリと焼いている。
真夏の太陽光よりも熱さを感じるくらいだ。やがてあれが爆発すれば、今度は文字通り、この身体が炭になるまで焼かれてしまうのかもしれない――。
それを想像すると身震いの一つもしたくなった。
焼死というのは、他のどんな死よりも苦しむと聞く。苦しみのあまり歯の噛み合わせがボロボロになるのだとか――。
そんな余計なイメージが脳裏に浮かんでくる。
けれどもう、どうすることもできない――。
「ユキ。まだ残ってる建物の影に移動するぞ」
ならばせめて、生存確率が少しでも高まりそうな行動を取るしかない。
石造りの建物程度では、あのエネルギーを受け止めることは到底できないと、わかってはいるのだが――。
ユキの肩を支えながら、十メートルほど移動して、建物の影に入った。
そうすると、浴びていた熱量もなくなり、逆にひんやりと冷たいような感覚に陥った。それだけの熱があったということだ。
ユキと横並びになって、冷たさのある石の壁にもたれかかった。
「ユキ。大丈夫か?」
ユキの表情を確認しようとした。
「私は大丈夫……だけど……」
隣に座るユキの瞳の端に、唐突に涙の滴が浮かび上がった。
「でもハンスは……逃げられたのに。私といっしょにいることなかったのに……」
声が震えて、鼻をすする。
やっぱりユキはどこまでも優しい女の子だった。気丈に振る舞っていたのは、やはりブレイバーとしての立場がそうさせていたのだろう。
「パラディンが戦場で泣くんじゃねえよ」
少しだけ意地悪なひと言に、一瞬だけ不服そうにしたが、しかしすぐに、ユキは表情を歪めた。
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