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「だって……」
「なあ、ユキ。もうブレイバーの時間は終わりにしよう」
「えっ?」
「ここからは、ブレイバーの立場を捨てようぜ? ただのハンスとユキに戻ろう。もう取り繕う必要もないんだ」
ユキの手のひらを握る。
「最期だからな……」
そのひと言で、さらにユキの涙腺を刺激してしまったらしい。ユキの涙は止まらなくなった。
「ごめんね……。ハンス。ごめんね……」
「だから謝るなよ。俺が自分の意思で決めたことだ」
そう、自分の、意思で。
『ノアの意志』ではなく。
それだけはいえる。この決断だけは、『ノアの意志』によって定められたものなどではないと。
ハンス自身が決めた。ユキと最後を迎えることを。
そこで不意に、『ノアの意志』について、ルカと話したときのことが蘇ってきた。
ルカは『ノアの意志』は、この世のすべての運命を決めているのではないといった。そしてそれに当てはまるのは、『人間の意志』であると解いた。
本当にそうなのかもしれない。
こうしてユキと最後をともにするという決断は、『ノアの意志』によるものではないと、ハンスもそう思う。この瞬間を迎えたからこそ、自信を持って、そういえる。
これは絶対に、他の誰かによって決められた未来ではないと。
自分の意志によるものだと。
どうやらお前は正しかったようだぞ、ルカ――。
そして、あのタイミングでこの話ができたことに、感謝すらも感じる。
これは『ノアの意志』ではなく、自分自身の意志なのだと、そう疑いもなく信じられるのは、あのときのルカの主張を聞いていたからだ。
まさか、それを予期していて?
いや、さすがに考えすぎだろう。
ルカとももう、これで会うことはないのか――。
いや、ルカだけではない。ミーアも、ソフィも――。
ジュリオや、フォルクや、ドゥドゥや、セラフィナとも。
ちょっとばかり、寂しさを感じた。今後はもう、彼らと会うことも、会話を交わすこともできないという現実に。
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