三章 『AL作戦』

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「だって……」 「なあ、ユキ。もうブレイバーの時間は終わりにしよう」 「えっ?」 「ここからは、ブレイバーの立場を捨てようぜ? ただのハンスとユキに戻ろう。もう取り繕う必要もないんだ」  ユキの手のひらを握る。 「最期だからな……」  そのひと言で、さらにユキの涙腺を刺激してしまったらしい。ユキの涙は止まらなくなった。 「ごめんね……。ハンス。ごめんね……」 「だから謝るなよ。俺が」  そう、自分の、意思で。 『ノアの意志』ではなく。  それだけはいえる。この決断だけは、『ノアの意志』によって定められたものなどではないと。  ハンス自身が決めた。ユキと最後を迎えることを。  そこで不意に、『ノアの意志』について、ルカと話したときのことが蘇ってきた。  ルカは『ノアの意志』は、この世のすべての運命を決めているのではないといった。そしてそれに当てはまるのは、『人間の意志』であると解いた。  本当にそうなのかもしれない。  こうしてユキと最後をともにするという決断は、『ノアの意志』によるものではないと、ハンスもそう思う。この瞬間を迎えたからこそ、自信を持って、そういえる。  これは絶対に、他の誰かによって決められた未来ではないと。  自分の意志によるものだと。  どうやらお前は正しかったようだぞ、ルカ――。  そして、あのタイミングでこの話ができたことに、感謝すらも感じる。  これは『ノアの意志』ではなく、自分自身の意志なのだと、そう疑いもなく信じられるのは、あのときのルカの主張を聞いていたからだ。  まさか、それを予期していて?  いや、さすがに考えすぎだろう。  ルカとももう、これで会うことはないのか――。  いや、ルカだけではない。ミーアも、ソフィも――。  ジュリオや、フォルクや、ドゥドゥや、セラフィナとも。  ちょっとばかり、寂しさを感じた。今後はもう、彼らと会うことも、会話を交わすこともできないという現実に。
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