三章 『AL作戦』

81/82

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/310ページ
「ユキ……」 「戦争が終わったらいうつもりだったのに……ハンスに先にいわれちゃった」  ユキは、はにかんだ。その笑顔が、何にも変えがたく、とてもいとおしく見えた。これが最後などと思いたくなかった。  ハンスは自分の顔を、ユキに近づけた。ユキの唇に、自分の唇を近づけた。ユキが驚いた顔をする。 「――まだ戦争が終わってないから、ダメか?」  冗談っぽくそういった。けれどユキがどう返答するかは、ハンスにはもうわかっていた。  ハンスの想定どおりに、ユキは小さく首を左右に振った。 「最後だから……いいよ」  ユキは瞳を閉じた。  最後だから、か――。  これが最初で、そして最後になる。  これほど嬉しくて、そして悔しい気持ちなどあるだろうか――。  複雑に揺れる心を抑えながら、ユキの唇に、自分の唇を近づけようとした――。  まさに、そのときだった。  背後にあった石の壁が、巨大な爆音を立てながら崩壊を始めた。その隙間から、瞳を焼くかような、言葉で表しきれないほどの光が差し込んだ。光の帯が遠くまで延びるかのように。  二人はバランスを崩していた。負傷したユキが、無理な体勢で地面に倒れた。瓦礫が降ってくるかもしれない。  ハンスはユキに覆い被さるようになった。  幸いにも防御魔法はまだいくらかは残されているはずだった。石の落下くらいになら、耐えられる。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加