四章 化神の力

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 その報告を聞いてからすぐ、シャーロットは自分の腕に巻かれた時計の針を入念に確認した。 「顕暦八七四年、仲秋の月、二十三日、午後三時二十八分――。試作型『ラグナロク』発動」  その時間をしっかりと書き記して、受話器を戻した。  研究所を出てから、二階の資料室に向かった。  普段通りにフリーパスで中に入ると、すぐに給湯室でコーヒー注いでから、一番隅の目立たないテーブルにコーヒーを置いた。  そして席に着く。不思議とすぐに、ため息が口をついた。  試作型とはいえ、自分が研究していた魔法が無事に発動されたのだ。それは喜ばしいことのはずだった。けれどなぜ、こんなにも複雑な心境に陥ってしまっているのだろう。  まるで開けてはならない悪魔の封印を解いてしまったかのような――。そんな錯覚にすら、陥ってしまう。  認められたいはずだったのだ。  研究者として、この魔研だけにとどまらず、もっと大きく、アルディス軍のすべてに。  それが延いては、ゼノビア軍との戦いに繋がる。彼らを制圧し、完全なる勝利を納めたそのときに、本当の意味でのシャーロットの目的は達成されるのだ。  その第一段階として、目に見えてわかる結果が必要だった。  そのためにも、今回の試作型『ラグナロク』の使用は有効であり、また戦況を好転させるためにも、まさに絶好の機会だったといってもいい。そして見事にその実験は成功した。  同時に、神徒レジーナは、アルデウトシティを含めた三つの地点で、ゼノビア軍の自走兵器を完全に破壊することを達成したようだ。  これでアルディス軍は、形勢逆転に成功したともいえる。現段階ではわずかに、アルディス軍のほうが優位に立ったといってもいいだろう。  もっともそれは、発動後の神徒レジーナの状態に左右される面もあるのだが――。  とにかく、自己中心的にいってしまうなら、自分にとっての実験は成功だ。シャーロットは晴れて、研究者として多大なる成功を納めたのだ。そういってもいい。
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