一章 未完の新兵器

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 顕暦八七四年、仲秋の月、十七日――。  開戦から三十七日目。  その事件は、まさに戦況が佳境を迎えようとしていた、この最悪のタイミングで起こったのだった。  それを語る前にもすでに、アルディスは、かつてないほどの国家の危機に晒されている最中だった。  事件というならば、むしろこの緊急事態のほうがよっぽどそれらしく、立派ともいえる事件だった。  それこそ、今後の国の未来を揺らがすほどの、未曾有の大事件だと表現しても差し支えなかった。  ゼーファスという、ブレイバーナイト首席の戦力を失ってしまった、仲秋の月十三日のあの戦いから二日後の、十五日――。  ゼノビア軍は、自走兵器を新たに三機導入して、アルディス本土の本格的な侵攻作戦を開始したのだ。  ハンスが勝手に、人型兵器などと呼んでいた、ゼノビアの最新兵器は、正式名称で『自走式対魔法型重兵器参式』というらしい。  参式ということは、壱式と弐式も過去に存在したのだろうが、おそらくは実戦導入前の開発段階で、バージョンアップが成されたのだろう。世に御披露目され、そして戦時に導入されたのは、この参式が初となったのだ。  長ったらしい名前なので、アルディス国内ではとりあえず『自走兵器』とか『自走兵』だとかで、呼ばれることになったそうだ。  とにかく、あの巨大かつ並外れた殺傷能力を有する自走兵器を、三機同時に出陣させた侵攻を、今のゼノビアは行っている。  当然、現状のアルディス軍には、三機を相手にして同時に対抗するほどの戦力を有してはいない。  結果的に、防衛ラインは日に日に後退を続けていた。  ゼノビア軍勢がアルディス領土を縦断していることで、その近隣の街は、領土として制圧されつつあった。彼らの出撃拠点として、アルディスの施設が利用されているのだ。
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