四章 化神の力

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 そして、今回の試作型ラグナロクの試算に用いられた数値は、ブレイバーパラディンが消費すると思われるマナと魔力量のおよそ三倍の量を想定していた。  これは、究極魔法という未知なる能力に対して設定された、より慎重さを期した安全率となっていたわけだが、仮にその考えかた――つまり試算の方法が正しかったとするならば、その想定さえも越えてしまうほどの異常なマナと魔力が、発動の際に使用されたことになる。  それが――神徒レジーナが内に秘めていた力というわけだ。  単純に分かりやすく数値として表すなら、安全率として設定されていたブレイバーパラディンの約三倍という数字は下らないと、そういうことだろう。  それだけの莫大なるエネルギーを操る能力を、神徒レジーナは秘めていたというわけだ。  そのうえ効果範囲は、想定の三キロを遥かに超過し、五キロにも延びている。単純計算でも、五割増し以上。  もはや人智では図ることのできない能力を、神徒レジーナは持ち合わせていたということらしい。それに気づけなかったのは、魔研側の落ち度だったのかもしれない。  もしもどこかの組織に責任追求がされるとすれば、きっと魔研が格好のネタとされるのだろう。  もっとも、新たなる魔法の開発には、レジーナは長きに渡って携わっていた。シャーロットが魔研所属となる、それ以前からずっとだ。  そして究極魔法のプロジェクトでいうなら、レジーナは重要な研究員の一人でもあった。  なので、恐れ多くも彼女と会話をする機会は、シャーロットにも幾度となくあったのだ。  けれどレジーナは、あまり自身のことについて、口を開くことを好まなかった。だから、神徒となる前に、レジーナが軍の中でどんな立場にいたのか、シャーロットは知らない。  同時に、彼女が内に秘める能力でさえも、正しく把握することができていなかったのだとしたら――。  化神とはそういうものだと理解していた。存在自体が秘匿されているのだから、当たり前だと納得していた。  だがもしも、もっと彼女のことを深く知っていたのなら、知ろうとしていたのなら、今回の出来事についても、別の結末があったのかもしれない。  考えうるベストを尽くせなかったのは、研究者としての落ち度だといえるし、甘んじて受け入れるべき失策だった。  ただ、それももう、過ぎ去ってしまった過去の話だ。  ここからできることは、試作型ラグナロクの発動結果から、より確実なロジックを確立することだろう。  それによって、より精度の高い完成版へと昇華させることができる――。
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