一章 未完の新兵器

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 こうなると、悪循環は止まらない。  不幸中の幸いといえば、同盟を組んだイーヴァインの戦士たちが、自国のある大陸西方面全般に睨みを利かせているため、そちら側の侵略は免れている。  ゼノビアの作戦としては、下手に侵攻範囲を広げるのではなく、首都アルディストンを落とすことに注力するということだろう。  この分では、一週間後には首都アルディストン近郊での攻防戦が始まるかもしれないという様相を呈しているのだった。  仮にそうなったとしても、現有戦力では対抗手段がないのは明白だった。アルディストンに近くなったからといって、では自走兵器に対応できるだけの装備が首都アルディストンにあるのかといえば、それはない。  せいぜい兵力となる人間を少し増やすくらいが関の山だろう。  機械を操るゼノビアと違い、アルディスの戦力は人的資源に頼る部分が大きい。それが失われ続けているのだから、劣勢に立たされるのも当然だった。  人間は機械のように、修理修繕ができるわけではない。一度失われた命は、二度と戻ることはない――。  要するに、アルディスに打てる手はもう、現実的にそれほど多くは残されていなかった。  いや、すでにもはや、たった一つだけになっていたといってもいい――。  最後の切り札を戦場に送り込むこと、ただそれだけだった。  そしてアルディス軍は決断した。  神に選ばれた、国家最大の戦力を、この戦争に投入することを。  神徒レジーナ――。  出撃を命じられたのは、神徒と呼ばれる彼女だった。  二人の化神のうちの一人であり、女神アイリスの魂をその身に宿すとされる女性だ。  ハンスも一度だけ、開戦前日の壮行会で、その姿を遠くから見たことだけはあるが、実力を含めた詳細については、まだまだ謎が多い存在である。  そして、戦争に化神を参加させるということは、世界的にも大きな意味を持つ決断だった。  というのも、国家間の戦闘行為に化神を出撃させる場合、対戦相手にその内容を知らせる義務が発生するのだ。  古くに三大国家間に結ばれた協定で、そう定められている。牽制的な目的と、倫理的観念と、その両方が思惑となっているらしい。
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