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「どうかな……。でも、踏み込んではいけないところまで、人間の技術が到達しちゃってる感じはあるのかな。ゼノビアの兵器も、魔法もね」
「踏み込んではいけない――」
「ま、人道的な話さ。そもそも闘いって、身体と身体のぶつかり合いが始まりだったわけで。それがいつの間にか、人間の手にすら負えないような技術どうしが、相手を殺し合ってる」
心にずしりと重くのしかかる言葉だった。体術を生業とする、イーヴァイン人の血を持つからこその感覚なのかもしれない。
尊敬し敬愛するミーアからの言葉だからだろうか。まるで自分がやってきたことが間違いだったのではと、疑いかけてしまいそうなほどだ。
いや、そんなに簡単に折れるほど、弱い決意ではないのだけれど。
ミーアは続けた。
「もしこれが、アルディスでよくいわれる『ノアの意志』によるものだってんなら、ノアは人類を滅亡させたいのかな?」
『ノアの意志』。
アルディスではもっとも身近な教えであり、またある意味では、信仰対象でもある思想だ。
研究者であるシャーロットとしては、科学的根拠の乏しいオカルトは、特別に崇拝するほどではない。かといって、否定するつもりもない。拠り所は誰にだってある。
ただシャーロットの場合は、信じるべきは目に見えない神ではなく、自分自身なのだ。
「『ノアの意志』は、ノアの発展にもっとも近い選択をすると説かれています。ノアが人類を滅亡させたいなら、それがノアの発展に必要だということになりますね……」
ソフィはすらすらと言葉を紡いだ。このあたり、さすがは純粋なるアルディス貴族だ。
きっと幼少の頃から、さまざまな知識を教え込まれているのだろう。
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