四章 化神の力

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 あの瞬間――爆風によって背後の外壁が吹き飛ばされようというその瞬間に、不意に思いついたのだ。  ラグナロクがいかに強大なエネルギーを秘めたものだとしても、それは『魔法』なのだと。  そして魔法を放つには、必ず『マナ』と『魔力』が使用される。  ハンスの持つ能力は、その魔法を形作る要素であるマナと、そのマナの形態変化を可能にする魔力というエネルギーを分解し、発散させることを可能とするのだ。  いくら高濃度かつ高密度に凝縮され、魔法として完全に近い形に変化させたマナでさえ、魔法無力化にかかれば、一瞬のうちにして分解され飛散される。それを――あの場で発動したのだ。  状況が状況だったために、持ちうる力をフルに行使した。  なのでおそらく、二人の全身を覆うようにして、ラグナロクを無力化できたのだと思う。今こうして、何とか生き延びているのは、それが成功したからに他ならないだろう。 「あの力は本来、行使すべきものではありません。けれど今回は、致し方ありませんでしたね。そして最善の判断でした」  またにこりと、レジーナは頬笑む。本当に死さえも恐れていない。  ならば一つ、ハンスには気になることがあった。命の危機にありながらも、頭の片隅にへばりつくようにして離れなかった、大いなる疑問だった。 「――今日戦ったゼノビア兵の中に、あの能力を持つ人間がいました。この力はいったい何なんですか? まさかゼノビアにも、同じような能力者がいるとは思っていませんでした」 「それはいずれ――あなたにもわかることです」  唐突に表情を険しくして、レジーナはいう。 「そしてそれは、あなたにとっての試練のときとなるでしょう。だからこそ今はまだ――表に出ることのないように、気をつけてください。あなたたちを助けたのは、そういう理由もありました。あの場所で生き残っているのを発見されれば、アルディス軍は間違いなく、その原因に疑いの目を向けることになるでしょうから」
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