四章 化神の力

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「――それでレジーナ様が、俺たちをここまで運んでくれたわけですか」 「そうです。それに神徒として、助かるはずの命を私は見逃しはしません。私はどちらにせよ、終わりを待っているだけの身……。最後にもし――あなたがたを救うために、私のこの力を使うことを求められるなら――いえ、求められずとも、少なくともその選択肢を提示することが、私の化神としての最後の義務――」  そういってレジーナは、ユキの手のひらを取った。  そしてハンスではなく、いまだ荒い呼吸を続けながら、険しい表情のまま目を閉じているユキに向かって、こういった。 「さあ、選びなさい。パラディン、ユキ。――あなたは私の啓示を受け入れてもなお、この世界に生きることを望みますか?」  啓示――?  すると、ユキの手を握るレジーナの手が、ぼんやりとした光を放ち始めた。  そして、まるでそれに呼応するかのようにして、ユキはうっすらとまぶたを開いた。ユキの視界の中には、そのぼんやりとした光が映っているはずだった。 「今、あなたも理解できたはずです……。私がこれから、何をしようとしているのか――」  レジーナの声が届いているのか、それはわからなかった。彼女の言葉に対する反応を返すことがなかったからだ。それはいい換えれば、その力さえも残っていないのかもしれない。  それからユキの視線は、ハンスのほうへと移動した。まるで瞳で何かを訴えるかのように――。  ユキが何を伝えようとしているのか、それを瞬時に読み解くことはできなかった。  それを理解する以上に、ハンスは自分の中にある、押さえきれない激情を、ユキに伝えることを優先した。 「ユキ、頼む! 生きてくれ!」  誰かに対して、ここまで強く求めて願うことは、今後もないのではないかと思うほどに。 「誰のためでもなく、俺のために! 生きるための理由が必要ならそれでいい! 戦うことが辛いなら、これからは俺が、ユキを絶対に守る! たとえユキがどんなに変わろうと、俺は絶対にユキの味方だ!」  ユキはわずかに、笑ったような気がした。そして視線を、レジーナへと移した。
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