四章 化神の力

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「わかりました」  ユキのブーツに触れて、ゆっくりと爪先方向に引き抜こうとする。 「あっ!……いぃっ……ぅう……っ……!」  ユキが表情を歪めた。やはり動かすと痛みが走るか。  どうする?  目についたのは、ユキが腰に下げている小太刀の鞘だった。ライキリを鞘から抜いた。  よく手入れをされていて、傷ひとつない刀身をしていた。  そこにマナを付加する。ここでは涼風のマナだ。ライキリは緑色をした光に包まれた。  その刀身を、ユキのブーツにあてがう。切れ味鋭くなった風の刃は、ブーツを生地を簡単に切断した。  そのまま縦方向に、ユキの肌を傷つけることのないように細心の注意を払いながら、ライキリを動かしていく。  縦に両断されたところで、魚の身を開くようにして、ユキの脚を露出させた。灰色の靴下の一部が、黒っぽく染まっている。血液のあとだ。  たしか、逃亡していたあの段階では出血はなかったはずだ。レジーナがいうように、状況は楽観視できるものではないようだ。 「レジーナ様、準備が――」  彼女を呼ぶために、ハンスは背後を振り返った。そして一瞬だけ、思考が停止した。  そこに映っていたのは、まさに荘厳とも呼べる光景だった。  レジーナは、教会のシンボルである、像の前に立っていた。  ここにある像の姿を、今になって初めてまじまじと見たわけだが、それはやはり、女神アイリスと魔王リエスを象ったものだった。  その二人の像から光が溢れ出して、それがレジーナの身体へと吸収されていた。エネルギーを分け与えられているかのように。  まるで、本当の神が現世に舞い降りてきたかのような、そんな錯覚がするくらいに、レジーナの姿は美しかった。  しばらくすると、その光はゆっくりと終息していった。
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