四章 化神の力

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「アルディスに点在する教会の像には、少なからずアイリス様とリエス様の魂が込められていて、それが国中を巡るネットワークを構築しています」  こちらに向かって優雅に足を進めながら、レジーナは説明をする。にわかには理解しがたいような話だ。 「おかげで彼女を助けるだけの力は取り戻せました。あとは、滞りなく儀式を実行するだけですね……」  儀式――ユキを助けることは、儀式なのか?  レジーナはゆっくりと、負傷したユキの右足の隣に正座をした。そして大きく広げた両方の掌を、そのうえにかざした。  魔法を使う際と同じように、淡い発光が始まった。しかしその色は、四種類のどのマナにも属さない色合いだった。  強いていうなら、太陽光の色に近いか。赤というべきか黄色というべきかわからない、独特の神秘的な光だ。思えば、先ほどレジーナが像から吸収していたのも、同じような光だった。 「……っ……ぅ……」  ユキの口から呻き声が漏れた。治療といえど、痛みを伴うのか。  身をよじって、床に爪を突き立てるようにして、かなり苦しそうだ。その痛みを請け負うことができるなら、変わってやりたいくらいだが、それはできない――。  そのとき――ユキの穿くニーハイソックスが、ぱちんという音を立てて、断裂した。レジーナの放つエネルギーによる影響だろう。  それによって、これまで見えることのなかった傷口が、ハンスの目に晒された。  ハンスは思わず、目を閉じてしまっていた。  ラグナロクによる影響なのだろうか――。  負傷箇所は内部の損傷に留まらず、皮膚までもを裂いて、付近は鮮血に染められていた。その血が渇き、傷口の周囲で黒ずんだ塊となって、とても見ていられるような状態ではなかった。
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