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「ユキ!」
呼びかけ続けた。
何度くらいそうしただろうか。やがてユキの右手の指がわずかに動いたのを、ハンスは見た。
「ユキ、わかるか!?」
その右手を軽く握った。かすかにだが、握り返すような力を感じる。そして、ユキのまぶたが動いた。
わずかに目を開けたユキは、最初はぼんやりと宙を眺めているだけだった。やがてハンスの声に気づいたようで、黒い瞳がこちらを向いた。
「ユキ! 俺だ! 助かったんだ」
「ハンス……。私……」
ユキは両手を持ち上げて、身体の動きをたしかめるように、掌を開閉させた。滞りなく動いている。まずは腕に後遺症のようなものはないらしい。
「足は――右足は……大丈夫なのか……?」
「右足……」
ユキは恐る恐るという動作で、右足の膝を立てた。その動きに不自然なところはなかった。痛みに表情を歪めることもなかった。
そもそも外傷自体が消えている。血液のへばりついた痕は残っているにしろ、肌は元通りに修復されている。
「大丈夫……みたい……」
「そうか。治ってるんだな。――起きられるか?」
「うん……」
ユキは上半身を持ち上げようとする。しかしまだ身体がはっきりと起きていないのだろう、途中で動きが緩慢になった。
ハンスはユキの手を軽く引いた。それから、反対の手でユキの背中に手を回して、ゆっくりと抱き起こした。その行程でも、表情は変わらなかったので、痛みはないようだ。
身体の損傷は快復しているといっていい。
「よかった……。本当に」
それ以上の言葉は見つからない。
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