四章 化神の力

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「ユキ!」  呼びかけ続けた。  何度くらいそうしただろうか。やがてユキの右手の指がわずかに動いたのを、ハンスは見た。 「ユキ、わかるか!?」  その右手を軽く握った。かすかにだが、握り返すような力を感じる。そして、ユキのまぶたが動いた。  わずかに目を開けたユキは、最初はぼんやりと宙を眺めているだけだった。やがてハンスの声に気づいたようで、黒い瞳がこちらを向いた。 「ユキ! 俺だ! 助かったんだ」 「ハンス……。私……」  ユキは両手を持ち上げて、身体の動きをたしかめるように、掌を開閉させた。滞りなく動いている。まずは腕に後遺症のようなものはないらしい。 「足は――右足は……大丈夫なのか……?」 「右足……」  ユキは恐る恐るという動作で、右足の膝を立てた。その動きに不自然なところはなかった。痛みに表情を歪めることもなかった。  そもそも外傷自体が消えている。血液のへばりついた痕は残っているにしろ、肌は元通りに修復されている。 「大丈夫……みたい……」 「そうか。治ってるんだな。――起きられるか?」 「うん……」  ユキは上半身を持ち上げようとする。しかしまだ身体がはっきりと起きていないのだろう、途中で動きが緩慢になった。  ハンスはユキの手を軽く引いた。それから、反対の手でユキの背中に手を回して、ゆっくりと抱き起こした。その行程でも、表情は変わらなかったので、痛みはないようだ。  身体の損傷は快復しているといっていい。 「よかった……。本当に」  それ以上の言葉は見つからない。
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