四章 化神の力

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 本音では抱きつきたいくらいの衝動があったが、しかしまだどこか、痛めている箇所が残っているかもしれないと思い、自重していた。  ハンスが相当情けない表情をしていたのか、ユキは呆れたように表情を柔らかくしたが、それもすぐに終わった。  はっとしたように険しくなると、早口で告げた。 「――レジーナ様は!?」  ついに、きたか――。  そういう気持ちだった。ユキの無事のほうに気を取られたまま、悪いことは忘れてしまいたいと目を背けていたが、それは恩知らずというものだろう。  ユキが一命を取り止めたのも、彼女あってのことなのだ。  ハンスは視線で知らせるために、今は静かに横たわる、レジーナのほうへと顔を動かした。ユキがそれを追う。それから、息を呑んだのがわかった。 「レジーナ様っ!」  ユキは即座に身体を動かそうとした。けれどやはりまだ、目覚めきっていなかったのだろう。バランスを崩したところを、ハンスが受け止めた。  二人でゆっくりと移動して、レジーナの左右についた。  レジーナはとても安らかな表情をしていた。ハンスはレジーナの腕を取った。そしてユキにしたのと同じように、彼女の手首に指の腹を添えた。  想像はできていたが、指の感覚が血流の反応を捉えることはなかった。  ハンスは無言でゆらゆらと首を振った。  ユキにも覚悟はできていたのだろう。特別取り乱すことはなかった。ただ神妙な面持ちで、亡きレジーナの穏やかな表情を見つめていた。  すべてを受け入れたような表情だった。疑いもなく悲しみもなく後悔もなく、揺るぎなく自分の生涯を余すことなく全うしたと、そう語りかけてくるかのように。  レジーナにはいったい、どこまでの未来が見えていたのだろう。  それもまた、『ノアの意志』が示した未来なのだろうか。
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