四章 化神の力

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「……うん。やめられない。目を背けられない」  つかの間を切り裂いて、ユキはいった。そのままハンスの胸に顔を埋める。 「私はもう……」  ユキの言葉が続かない。  いったい何に迷っているのだろう。 「戻れない」 「ユキ……?」  そんなとき――。 「ここだ! この近くだ」  唐突に、建物の外のほうから、何やら人間の大きな声が聞こえてきた。複数人いるようで、言葉をかけあっている。  まさか、敵か?  ゼノビア兵だろうか。  レジーナの放った試作型ラグナロクによって、彼らの九十九パーセントは殲滅されたはずだ。しかしやってきたのが、残る一パーセントである可能性は否定できない。  ハンスは息を潜めた。 「この教会だ!」  彼らはこの建物に何かを見いだしたらしい。偶然か必然か。ここにいることがバレてしまったのか。  教会の扉が開けられようとしている。 「ここにレジーナ様の反応がある!」  それで、ほっとした。どうやら、考えすぎだったようだ。  レジーナに『様』をつけるのは、アルディスの人間に他ならない。話の内容から察すれば、アルディス軍の部隊がが神徒の救助にやって来た、と捉えるべきだろう。  しかしながら、それは叶わないことだ。神徒レジーナは自らの意志で、その人生を終えた――。  もっとも、ユキを助けるという選択をしなかったら、結果はどうなっていたのか未知数だ。  レジーナ自身はここで命が終わるというようなことをいっていたが、虚言だった可能性も否定はできない。
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