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顕暦八七四年、残秋の月、五日――。
約束の日から二日――クラッドストン学園の休暇日になっているこの日、ハンスは街への入り口につながる広場でソフィを待っていた。
クラッドストン学園寮からは少し距離がある場所だが、ソフィの実家であるオールティストンの屋敷と街とを結ぶ道なりということで、この場所を待ち合わせにした。
ソフィの家は、小高い丘の中腹に位置している。アルディストンは基本的に平地が多い土地柄なのだが、ところどころには、そうした丘陵地帯も存在している。
それらの勾配のある土地というのは、決まってアルディスの有力貴族たちの所有する土地であり、だから貴族たちは高い場所に豪邸を建てたがるという風習があるらしい。
その例にたがわず、ソフィのアインスフェルト家も、標高の高い場所に居を構えているというわけだ。
アインスフェルトの豪邸には、ハンスはまだ訪れたことはない。おそらくよっぽどのことがなければ、永遠にその中に入ることはないだろうし、それどころか、土地に足を踏み入れることすらできないのかもしれない。
戦争孤児とアルディスの貴族では、やはり身分が違いすぎる。天と地ほどの差といってもいいのだ。
そう考えると、ブレイバーという共通項のおかげとはいえ、ソフィと友人どうしになれたというのは、奇跡的なことなのかもしれない。
普通に平和な世の中で、平和な人生を送っていたとしたら、たったの一度も交わることのなかっただろう二人なのだから――。
オールティストンの一族は、アルディス有数の貴族であるということもあり、神徒レジーナの死に対して執り行われるさまざまな行事に参加する義務があるのだそうだ。
ソフィのそれらに参加して、ここ数日間はとても忙しくしていたらしい。
貴族のしがらみ、というやつだろうか。
面倒という表現は適切ではないが、いろいろと制限がかかる生き方は少し窮屈そうに思えてしまう。
ただその代わりに、衣食住に困ることはないので、やはりそうした意味では安定した生活なのだろう――。
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