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街には、少し冷たい風が吹き抜けている。
比較的温暖な気候であるアルディストンとはいえ、残秋の月ともなれば、肌寒さを感じるほどに気温が下がってくる。初めて越すアルディストンでの冬に備えて、衣類を新調するくらいはしておいたほうがいいかもしれない。
またユキに選んでもらえるといいが――今は状況的に、少し難しそうなのが歯痒かった。
そもそも、なぜユキがハンスから距離を置いているのか、それすらよくわかっていないのだ。だから、どうアプローチをかけるべきなのか、それすらも決めかねている。
まるで身動きの取れない迷路の中にいるように、進むべき先を見失っているのだった。
それからしばらく待っていると、やがて坂道を下ってやってくる人の姿が見えてきた。
ベージュ系統の色合いをしたワンピースの上に、白の上着を羽織っている。肩に小さな肩掛け鞄を下げて、優雅に上品に、こちらに向かって歩いてきている。
ひと目でそれが、ソフィなのだと察知できた。たとえ顔がはっきりと見えない距離であっても、身体から滲み出るような高貴さというのは、隠すことができないものらしい。
やがて、彼女の輪郭は徐々に大きくなってくる。ハンスの姿を見つけたソフィが、小走りに近づいてきた。
何だろう――その瞬間に、得体の知れない既視感を覚えた。
とても嫌な予感がする――。
「す、すみませんっ。遅くなって――あっ!」
手を伸ばせば届きそうな距離で、図ったかのように、ソフィが何もないところでつまずいた。
やはり――。
嫌な予感はこれだったか。
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