一章 未完の新兵器

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 その化神のうちの一人、神徒レジーナが、戦地に赴くことがついに決定した。  現状の戦況を考慮すれば、致し方のないことだ。アルディス国が敗北してしまえば、もはや魔法がどうだとかいう議論をすることさえできなくなる。  まずは国が生き残ること、それが最優先事項となることくらい、研究所に缶詰めとなって世間離れしてしまったシャーロットも、よくよく理解できていた。  アルディスという国家を守るためならば、あの神徒でさえも、命を賭す覚悟ができているのだろう。  現状は戦闘行為から離れているシャーロットでさえも、今のアルディスの置かれている状況の厳しさは認識しているつもりだ。  だから、指名された神徒レジーナが決めた覚悟は、相当なものだったのだろうと思う。  神徒という、国家最大の戦力として、アルディスを背負うのだ。  シャーロットには想像もできない。  神徒といえども、国どうしの本気のぶつかり合いともなれば、命を落としてしまう可能性は十分にありうるのだ。ゼノビアは近年飛躍的に、機械兵器の技術を高めているのだから。  だからこそ、神徒レジーナは、出撃前に彼女の持ちうる魔法に関する知識のすべてを、魔卿ジェルドに託した――らしい。  直接そんな場面を見たわけではないので、魔研の間で噂程度に広がった話を聞いたということでしかないが。  現在、国家的に重要な魔法の研究に従事している立場のシャーロットといえども、神徒レジーナと直接会う機会は、一月に一度あるかないかというくらいなのだ。  だからこれは、噂なのだ――。  噂の域を出ないのだが、レジーナは自分の中にあるすべての情報を、ジェルドに受け継いだ。  それこそまさに、この戦争によって、自分が命を落とすということを予期しているかのように――。
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