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「じゃあ、はじめに行ってしまいましょう。武器屋は閉店も早いですし」
「へえ、そうなんだ?」
「はい。職人さんは、朝も夕も早いですから。たぶん彼らは、日が暮れる頃には仕事を切り上げて、酒場に出かけるんだと思います」
「ああ、なるほどなあ……」
とてもイメージしやすい情景だった。屈強な男たちが、仕事の疲れを忘れるために、グラスを傾ける姿が脳裏に浮かぶ。
二人は歩き始めた。商業区までならば、会話をしながら歩くのにはちょうどいい距離だ。
「ハンスくん、あらためてお疲れ様でした。おかげでアルディスは、今もわたしたちの国であり続けてます」
なんとも改まったねぎらいの言葉だった。
これはソフィの、というよりは、アルディス貴族としての感謝の言葉のように聞こえた。
「いや、そこまでいわれると恐縮するな……。別に俺個人の働きなんて微々たるものなんだし。軍全体で、精一杯やった結果だよ」
微々たるもの、という表現すら、誇張かもしれない。
実際にどれだけ役に立ったのか、いや欠片ほどの役にしか立っていなかったのかもしれない。それでも、『首都防衛AL作戦』の勝利に少しでも貢献したといってもらえるなら、救われる。
「微々たるなんて……そんなことはありませんよ」
そんなことはありません、とソフィは強調するように繰り返した。
「ハンスくんは、アルディス軍がなぜ、できる限り人命を失わない戦いをすることを重視しているか、知っていますか?」
唐突な設問だった。
学のないハンスには難問だ。
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