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「うーん……いや、具体的には知らないな」
単純に、兵士を軍の駒という無機質な物としてではなく、一人一人の人間として扱い、その人権に寄り添っているのかと思っていたが、ソフィが質問するということは、もう一歩深い意味合いがありそうだ。
「少し、難しいかもしれないですね。その答えは――結束された集団の力のほうが、ほかのなによりも大きな力になると、長年信じられてきたからです」
ソフィは、まるで迷うことなくいいきった。まるで昔から、繰り返しそう教えられて、聞かされ続けてきたかのように。
事実、そうなのかもしれない。
「結束……か」
ひと言でいうのは簡単だが――。
「そうです。一人の化神よりも一〇〇人の雑兵――そういう思想を疑うことなく、アルディス軍は信じてきました」
一〇〇人か――。
たしかに一〇〇対一は想像のし難い戦いではあるが、しかしたとえば一〇〇人が束になっても、あのレジーナに勝利することは難しそうな気がする。
数がどうこうではない。次元そのものに隔たりがあるような、根本的な差異が生じている――そう思う。
けれどアルディス軍のこの教えは、たぶんそういう、できるできないの問題ではないのだろう。国の指針として、軍が一丸となって戦うという姿勢を示しているという解釈をすべきなのだろう。
全員が同じ方向を向いた集団なら、おそらく個人個人が最大限の力を発揮することができる。そういうことをいいたいのだと思う。
「だからハンスくんの力がたとえどんなに小さくても、確実にアルディス軍の力になっているんですよ」
実際はそう単純でないにしろ、そういう肯定的な思想は嫌いではない。
「はは。それなら、ソフィだってそうだろ?」
「わたし、ですか? ――いえ、わたしは……戦場には立っていないので……」
ソフィは逃げるように俯く。
やはり、そのことに少なからず負い目を感じているのは、今でも変わっていないらしい。たぶん気にするなといっても、ソフィには無理なのだろう。
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