五章 休戦期間

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 しかし国の指針として、結束が示されるのであれば、それだけで一つの統率力に変わると思う。少なくとも管理者や部隊のリーダーレベルくらいまでは、思想を同じくすることができるだろう。  さらに次の段階――教えが末端の個人個人にまで浸透していけば、たとえばドゥドゥのように、ソフィに理不尽な嫌がらせをする者もいなくなるのかもしれない――。  が、今はまだ、それは理想だ。  そこまでを求めるのは現状では難しいだろうと思う。  命のやり取りがある戦場では、常に冷静でいられるとはかぎらない。ついつい取り乱したときに、人間の本音は出るものだ。逆にいえば、それでも自分を見失うことなく信念を貫く戦士こそが、一流たるあかしだ。  自らの命を顧みることなくユキを助けることを選んだ、神徒レジーナのように――。 「――けど、そのブレイバーも少なくなってしまったな」  統率という意味では、下手に大きくなりすぎるよりは少数精鋭が良いとされるが、そういう問題ではない。すでにその域を越えるほどに、戦力は失われている。  そして、個人の資質の良し悪しとは別問題で、たとえ反りの合わない人間がいるにしても、同志の命が湯水のように失われ続けるのは心が痛む。 「そうですね。ブレイバーナイトも、気がつけば半分近くが減ってしまいました……」  ハンスにとっての一番のダメージは――やはりルカだ。普段から関わりのある者たちの中では唯一、彼だけが生死不明となっている。  ソフィにとっても、ルカはアカデミー時代からの知り合いらしいので、ショックがないわけではないだろう。だからこそ、ここでその名を軽々しく口にできなかった。  ルカは――どうなった?  どこにいる?  考えても答えは出ないだろう。ラグナロクは範囲内のすべてを焼きつくしたのだ。遺体の跡形すらも残さないほどに――。
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