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「さあ、はこっちの台詞だよ! どうした急に!? ――いや、本当に、何も思い当たらないんだ」
もっとも重大な出来事といえば、やはりレジーナがユキを助けたのと引き換えに命を落としたことだろうか――。
しかし、ソフィの理屈を採用するなら、その場合は悲しみを忘れるためにも、ハンスを頼ろうとしてくれるはず。
実際にユキは、あの教会ではハンスの胸で泣いていた。それはハンスを頼ってくれたといってもいいだろう。
それがなぜ、突然、変わってしまったのか。
そういえば――。
そういえばあのとき、アルディス軍の助けが到着する前に、ユキはハンスに何かを伝えようとしていた気がする。けれどたしか、内容が漠然としていて、はっきりとしないことだったのだ。
ユキは何をいおうとしていたのだろう?
「そうなんですか? うーん……喧嘩かと思ってましたが……」
ソフィらしからぬ、考える仕草をする。顎に手をかけるポーズはソフィにはとても似合っていなかった。
というより、喧嘩?
そんな想像をしていたらしい。
やけにシンプルというか、俗っぽい推理に成り下がってしまった。
「喧嘩はしてないぞ、たぶん」
少なくとも、ユキから何か不満をぶつけられてはいない。
「じゃあ、いったいなにが……」
「だから、レジーナ様とベルトラムさんたちのことで……。それか……もしかして、アルディス軍から何かいわれたのかな――?」
それは新たな可能性だが、しかしありえる推測だった。
たとえば、レジーナの死について、何らかの叱責を受けただとか――。パラディンの人員不足によって、責任が降りかかってきたか――。
とはいえ、憶測にすぎない。
これ以上考えても、おそらくもう答えにはたどり着けないので、二人は諦めて再び足を進め始めることにした。
商業区は近づいている。
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