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※※※
久しぶりに訪れた商業区は、以前とほとんど変わらない様相を呈していた。
変化があるといえば、四季の移ろいに伴って、街路樹がその葉を落として、幾分か痩せ細っているくらいだろうか。
木枯らしが吹く通りは、夏場に比べるとひんやりとしているが、そこで働く技術者たちの熱気は冷めることなく維持されている。
アルデウトシティでの勝利の結果報告が、彼らの士気を高めたのかもしれない。六ヶ月後の開戦という目標に向けて、また気持ちを新たにしているところなのだろう。
そんな活気を横目にしつつ、記憶をたどりながら歩き、ハンスとソフィが訪ねたのは、約半年前にユキの『ライキリ』を譲り受けた、あの巨漢の職人バジルが営む武器屋だった。
その武器屋自体も、あのときのままで堂々と店を構えていた。
店舗に入る直前には、店主であるバジルの、あの厳つい髭面が思い出された。
繊細さとは無縁そうな風貌であるが、彼の鍛冶の腕が一級品だということは、ライキリが問題なく使われていることで証明されているだろう。
ハンスは店の扉を引いた。そのとたんに、油と金属の匂いが鼻をついた。まさに工房といった感じだ。
建物の中に入ると、そこには先客がいた。
カウンターの親父と向かい合っている、その後ろ姿が目に飛び込んできた。しかも女性だった。他に客はいない。
それにしても、武器屋に女の子一人とは珍しい――。
「おう。らっしゃい!」
そんなことを思っていると、親父の威勢のいい声に出迎えられた。そこまで広くない店の中で、人間離れした声が反響する。もう少し、声量を加減をしてほしい。
親父に反応するようにして、客の女性もこちらを向いた――。
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