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「――って、ユキ!?」
なんとその女の子が、ユキだったのだ。まるで予期せぬ事態だった。
見慣れたパラディンの軍服姿ではなかったので、まったく気づかなかったのだ。
今日のユキは、黒の上着に緑系統の短パン、その下に黒のストッキングを穿いていた。このストッキングという姿は、以前に出かけたときと同じだ。
全体的に暗めの配色が、ユキの控えめな性格を表しているかのようだった。
「ハンス――」
驚いたように、ユキも呟く。
そして、ユキの視線は、ほとんど間を置くことなくハンスの後ろへと移っていった。そこには、同伴しているソフィの姿があるのだった。
あ、まずい――。
直感的というか、本能的というか、ハンスの脳内に警報が鳴り響いた。
時を同じくして、ユキの表情が氷のように冷たくなった――ような気がした。
「ふうん……」
意味ありげに、いやむしろ、不満ありげに呟きながら、ユキはハンスの横を通りすぎようとした。
「あ、ちょっと待てよ――なんだ、もう帰るのか?」
「だって、二人のデートのお邪魔になっちゃいけないですし」
何とも棘のあるいいかたで、しかも敬語になっていたのだった。
ユキが何に対して機嫌を悪くしているのか、その理由について、ぼんやりと想像はついているつもりだが、かといってソフィとの関係は、ユキが心配するようなものではない。
という説明を、ここでくどくどとしても、たぶんユキは納得しないだろうけど――。
結局のところ、この場でユキと遭遇してしまったことが、不運だったというしかない。
「あ、あっ、べ、べつにわたしたち、デートとかじゃないんですよ!? ちょっと武器を見に来ただけで……」
ソフィもユキの不穏な空気を敏感に感じ取ったのか、必死に取り繕うように釈明した。
といいつつ、デートというユキの琴線を揺さぶる禁止ワードに触れてしまうあたり、ソフィらしい。
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