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聞かれたユキは、不思議そうな顔をした。なぜそのことを知っているのか、という表情だ。
「わたしは今回、医療チームに所属していましたので、負傷者の情報がそれなりに入ってくるんです」
ユキの言葉を先取りするように、ソフィは説明した。
さすがは由緒正しき貴族の娘である。訓練されているのか天然なのか、不穏な場をうまくつなぎ止める能力にソフィは長けている。
まあ、べつにハンスにとって不穏でも、二人には不穏というわけではなかったのかもしれないが。
「そうなんだ。――うん、大丈夫です。レジーナ様の治療を受けたから」
足を引きずっていたのが嘘のように、ユキの怪我は快復した。そしてラグナロクによるダメージも。後遺症が残ることもなく、あの短時間で全快してしまったのだ。
まさに魔法のいう意外ない。誇張ではなく、ユキはレジーナに命を救われたのだ。
「レジーナ様の――」
ソフィは息を呑んだようだった。
「どうかしたか、ソフィ?」
「あ、いえ……」
口ごもる、ソフィ。何かを隠したようにすら思えたが、この流れで問いただすべきではない。
「じゃあ、私は行くから。これから学園に用事もあるし」
「そうか……。なんか、相変わらず忙しそうだな」
「まあ、ちょっとね……」
微妙な反応をする。
まただ――。
あの日、アルデウトシティから戻ってきて以来、ユキはハンスと距離を置こうとしている。そう思わずにはいられない。それをまた、たった今感じ取ったのだ。
「休戦したし……今度また、街の案内でもしてくれないかな……?」
ハンスはそういった。
ここで何事もなく、言葉を交わすことなく別れてしまったら、次に会うのがずっと先になってしまうような、そんな嫌な錯覚がしたからだ。
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