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ユキは逡巡したように顔をあげて、ハンスを見た。
「そうだね――うん。また……」
そういったユキの表情は、やはりぎこちなかった。やっぱり何かがあるのだ。ユキは何かを隠している――。
そのままユキは店の扉に手をかけようとした。
「おい。お嬢ちゃんよ」
出ていこうとするユキの背中に、唐突にバジルが大きな声をかけた。ユキは足を止めて、カウンターを振り返った。
「例のブツのことなら気にするな。なあに、心配しなくとも、使い手については察しがついてるさ。うまいことやっておくぜ!」
「……っ」
ユキは瞬間的に顔を赤くすると、そのまま足早に店を出て行ってしまった。
「何なんだ?」
会話の流れからして、ユキは親父へ武器か何かの依頼をしたようだが。
「――親父さん、ユキは何を買ったんだ?」
ユキが出て行って、完全に扉が閉まったのを確認してから、ハンスは訊いた。
「あん? 何でもねぇよ。お得意様のプライバシーは守る主義でな。――というよりよぉ、親父なんて呼ぶんじゃねぇぜ。オレ様にはバジルって立派な名があるんだからよ! それはまだ、三十そこそこなんだぜ?」
妙なところに拘る男だった。
そうだったな――。
そういえば指導監のルークの元同僚だという話を、久々に思い出した。
「ああ、それはすいません。バジルさん。――けど驚きました。ユキもここを利用していたなんて」
「あ? そりゃそうだろうよ。あの嬢ちゃんにライキリを授けたのはオレなんだぜ? アフターサービスも仕事のうちだろうが」
「じゃあユキも、知ってたんですか。あれがバジルさんの店の物だってことを」
それについては、ハンスからは話していなかった気がする。
というよりも、無精なことに、ライキリのその後について、ハンスは何もフォローしていなかったのだ。バジルから金銭の請求がなかったものだから、そのままになっていた。
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