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そこでバジルは、意図せず漏れたような乾いた笑い声を、吐息とともに吐き出した。
「同僚――つうか同じ部隊にだな――優秀な出世頭がいてなあ……。そいつがよぉ、当時は小太刀を愛用していたんだ」
「へぇ、じゃあやっぱり、需要があったんですね」
遠距離武器が乏しく、また魔法についても現在より劣っているとなると、小太刀のような武器も、必然的に求められたのだろう。
小太刀を愛用する実力者か――。
ふと、疑問に思う。
さっきバジルは、当時は小太刀を愛用していた、と表現した。
つまり現在はそうではない――となると、まさか現役のブレイバーなのか?
だが、バジルと同世代ということは、少なくとも三十代半ばというところだろう。
そんな年齢の現役ブレイバーがいただろうか――。
「出世頭ということは、もしかして、今も軍に所属しているのでは?」
ソフィが訊く。ハンスは心中で彼女を称賛した。ハンスの疑問に対する的確な質問だったからだ。
たしかに、確率の高い推理だ。現役でなくとも、アルディス軍幹部として軍に残っている可能性はある。
バジルはしばし、思慮を挟むような仕草をして、やがて口を開いた。
「まあ、そうだな……。一人は残ってるぜ。お前たちもよく知ってるだろ? 実力はたしかだったのに、怪我で引退を余儀なくされちまってな、まあ、軍にはまだ未練があるのかもな……」
これは――間違いなく。
「ルーク指導監……ですよね?」
直近でユキの負傷を経験しただけに、妙に深く心に突き刺さった。ユキもレジーナがいなければ、一命を取り止めたにしても、今頃は引退となっていただろう――。
バジルは感慨深げに首肯する。そしてすぐに、表情を引き締めた。
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