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「まあでもな、怪我なんてまだマシなもんよ。魔法を奪われたにしろ、自由と命は残るんだからな。――もっと残酷なのは、抗えない運命と責任を押し付けられて、そのうえ国のために死に急いじまうことさ……」
抗えない運命? 責任?
死に急ぐ?
「――わかっていながら戦死したんじゃあなあ、いくらなんでも救われねえだろ……。まあ、本人がそれで納得してるなら、オレが口出しするようなことじゃないんだがなぁ」
バジルという豪傑そうな男から、こんなにも弱々しい言葉を聞くとは思わなかった。
察するに、怪我をしたルークとは別のその同僚は、何かしらの責任ある立場まで昇格して、そして戦争で命を落としてしまったようだ。
もっとも、これ以上深入りはできないが。
そんな雰囲気ではない。
相手は自分の倍の人生を生きている人間なのだ。おいそれと過去を掘り下げるなど、失礼極まりない行為だろう。
ソフィですら、少し動揺しているように思えた。
まさかバジルとの間まで、こんな湿った空気になるとは想定外だ。何か、話題を転換しなくては――。
と、そこでようやくハンスは、本来の目的を思い出した。
「――えっと、そういえばバジルさん。本題なんですけど、実は先日の交戦で、剣が折れてしまったんです。代わりになるものがないかなと思って」
するとバジルは、さすがというべきか、切なげな顔つきをすぐに封印して、即座に仕事人としての表情に戻った。
それどころか、どういうことなのか、にやりとしたたかな笑みまでもを浮かべた。
「おう、お前さんの武器はたしか、片手の長剣だったよな? 刀身はこれくらいの太さだったか」
バジルは、カウンター背後に吊り下げられたたくさんの剣のうちの一本を指した。
それはいわゆる大剣に属するものだった。あのゼーファスが使用していた剣に近いサイズ感だ。
「いえ、もう少し細いです。同じようなものは――見当たらないですね」
師から託された剣の出どころはわからない。しかしおそらく、二本とない特注品だったのだと思う。ゆえにサイズも特殊だったのだろう。
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