五章 休戦期間

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 もしかして、原因はそれなのか――?  ありえないことではない。  ぼんやりと考えられることとしては、他の理由もなくはなかった。ハンスがあのときに使用した魔法無力化の能力だ。  あの摩訶不思議な力については、ユキには説明していない。レジーナから口外するなと忠告を受けたからという理由もある。  そういえば――ゼノビア兵中佐のエルヴェルも、同様の能力を使用していた。ハンス以外にも能力者は存在するのだ。  ということは、ユキが能力のことをすでに知っている可能性もあるのかもしれない。  他に考えられることといえば、何があるだろうか。  「やっぱり、レジーナ様とのことでショックが残ってるのかな……」  もっとも有力だと思っているのが、これだ。  レジーナは自身の死期を悟っていた。少なくとも本人はそう発言していた。だからユキを助けて終わるという選択をした。  けれど救われた側のユキにしてみれば、結果的には自分の身代わりにレジーナが命を落としたように捉えてもおかしくはない。それを悔いているのだと、勝手に想像している。 「真実はわかりませんが、化神は自分の死期がぼんやりと見えるとされています。そして神徒であられるレジーナ様が決められたことであれば、私たちのような一般人にはそれを止める権利はありません。たとえそれが、レジーナ様の生命に関わることだとしても、です。それを悔いるというのなら、そのことこそがレジーナ様に対する失礼に当たります」  ソフィはらしからぬ強い口調でいった。 「そういう……ものなのか」  理屈はわかる気がする。  絶対的な存在である化神の決断もまた、絶対的なものであるということだろう。だから、その決断に負の感情を抱くということが、彼女への無礼だというわけだ。  だとすると、仮にハンスの予想が正しいなら、ユキはレジーナに対する無礼を行っているということになる。
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