12人が本棚に入れています
本棚に追加
/310ページ
顕暦八七四年、残秋の月、十九日――。
武器屋の親父であるバジルがいった言葉の意味を理解できたのは、彼の店を訪れたその日から、ちょうど二週間が経過した日だった。
そうまさに、彼が要求した期間にぴったりと一致する、その日だ。
その日はいつものように、ハンスは朝から、クラッドストン学園に出かけた。戦争は中断され、任務はちらほらとあるものの、基本的は日々の座学と実習を繰り返して自身の鍛練を続けているという日常だ。
ブレイバーの人数が、たったの一ヶ月半程度で流れ落ちるかのごとく減り続けたこともあり、一人一人のパワーアップは必然的に求められているし、個人個人にかけられるその期待は、以前よりも高まっていると思う。
年の暮れでもある初冬の月の末には、新たなる人事が発表される予定なのでは、などという噂もあった。
いつものように、寮を出てから、これもまたいつもと変わらない道路を歩いて、クラッドストン学園の正門にたどり着いたときに、ハンスはそこに見覚えのある姿を見つけた。
「ユキ……?」
こんなところで何してるんだ、と訊こうとして、ぎりぎりのところで、ブレイバーの暗黙のルールのことを思い出した。
学園内ではそもそも、ユキと顔を合わせること自体がほぼないので、油断してしまっていた。
とにかく、その場面を下手に見られでもしたら厄介だ。自分がどうこうなるのはまだ我慢できるにしても、ユキにまで迷惑をけてしまうわけにはいかなかった。
だからハンスは、目配せくらいでそのまま通りすぎようとした。
「待って、ハンス」
「えっ?」
予想外にも、ユキのほうから呼び止められた。真面目かつ品行方正なユキに限って、ルールを忘れているなんてことはないだろう。
「話があるの」
「……いいのか」
ユキはまるで周囲を気にすることなく、堂々とハンスに対面している。他の登園者たちも、ちらほら見受けられるのだが。
最初のコメントを投稿しよう!