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ふふ、とユキは小悪魔的な笑みを浮かべた。
「ここはまだ、学園の敷地の外だから」
たしかにその通りで、ユキは学園の正門の外側でハンスを待っていた。だから厳密にいえば、まだプライベートの時間だといえなくもないわけだが――。
はたしてそう解釈してくれる人がどれほどいるだろう。そちらのほうは、多数派ではない気がするのだ。
「あとで怒られても知らないぞ。――で、どうした?」
何だか、ユキとまともに会話をするのは、久しぶりのような気がする。
休戦に入ってからというもの、ユキはハンスに対して微妙な距離感を保っていたが、今の彼女からは、その不穏な雰囲気は消えているように思えた。
以前のような、幼馴染のユキに戻っている。
「実は、渡したいものがあって」
と、ユキは切り出した。
「――ていっても、今ここにはないから、今日の実習が全部終わったら、どこかで会えない?」
「ああ、わかった。場所は――」
うーん、とユキは考える仕草をする。会うにも場所を選ばないといけないのは、何とも不便なことだ。
「教会……」
ユキは呟いた。
「うん、教会にしよう。学園寮の近くにあるよね? あの教会で」
正直なところ、想定外の待ち合わせ場所ではあった。
アルディスに点在する教会は、どこも違うことなく、アイリスとリエスによる加護があると信じられている。わざわざそんな神聖な空間を選ぶということは、それなりに重要な内容なのだろうか。
「時間はどうする? たぶん、パラディンの実習のほうが遅くなるんだよな」
「じゃあ、夕方の六時に。それでいい?」
「大丈夫だ」
それくらいの時間なら、教会を訪れる人もほとんどいなくなっているだろう。落ち着いて話ができそうだ。
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