終章

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 ハンスの身近な人間でいえば――ルカがそれにあたるかもしれない。  今のところ、ルカが、死亡したという痕跡は発見されていない。武器も軍服も持ち物も、彼を示す物はどこにも存在しなかったのが現状だ。  ルカだけではない。死者行方不明者は多数にのぼっている。  シロガネのクラスも例外ではなく、講義室が閑散としていると感じられるほど、その人数は減少していた。 「そういえば、ブレイバーの臨時昇格も検討されているらしいな」  普通は仲春の月がその時期にあたるわけだが、このかつてない戦力難にアルディス軍は部隊の再編成を計画していると、先日ソフィから聞いたのだ。  彼女と同じく貴族のジュリオなら、その情報が伝わっているのではと思ったのだ。  そのタイミングが、ひと月後の初冬の月となる可能性があるそうだ。 「まったくハンスは耳が早いな。そうそう、候補者は挙げられているらしいぜ。たとえばナイトなら、ミーアあたりは確定かな?」 「ああ、そうなるのか……」  すっかり忘れがちになっていたが、ジュリオのいう通りで、ゼーファスが亡き今となっては、ミーアはナイトの首席にあたる。  編成が本格的に進められるというのならば、ミーアの昇格は避けられないだろう。  ただ、そうなると――ミーアとも階級違いとなり、迂闊に会話することすらできなくなってしまう。憎き暗黙のルールのせいで。  それを考えると、ミーアが昇格することを手放しに喜ぶことができない自分がいた。  まったく自分本意な欲望ではあるが、ミーアは戦場において、ハンスの精神的支柱でさえある。彼女とともに戦えない戦場だと、百パーセントの力が出せないといってもいいくらいだ。  実際にアルデウトシティでの決戦では、ミーアのいない違和感を少なからず感じていた。  ミーアには傍にいて欲しい――。  不純な動機ではなく、頼れる同僚として。今後も切磋琢磨していきたいのだ。階級など、関係なく。
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