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そして、日常という名の平凡な時間は滞りなく進んでいき、夕方の六時が近づいてきた――。
クラッドストン学園を出て、ハンスは目的の教会に向かった。
年間を通じて温暖な気候にあるアルディスではあるが、さすがにこの季節ともなると夕方の風はかなりひんやりとしてくる。分厚い軍服を着ていたとしても、肌寒さを感じるくらいだ。
それに日光が大地を照らす時間も、冬に近づくにつれて短くなる。要するに、昼の時間が短くなり、反対に夜の時間は長くなる。
その詳しい原理はいまだ解明されていないが、もしかすると『ノアの意志』によって定められた、何か意味のある現象なのかもしれない。
ともかく、そんな季節の影響によってすでに薄暗くなった道路をハンスは進んだ。
わざわざ呼び出したということは、今朝も考えたように、ユキには何か相応の用事があるに違いない。いったい何を切り出されるのか、今のところはその見当はついていなかった。
まるで予想外なことを告げられるのではないかと、少し恐怖を感じるほどだった。
たとえば、お互いの関係についてだとか――。
悪い想像が頭をよぎるので、考えることはすぐにやめた。
会話の主題として、もっとも可能性として高いのは、やはりあのアルデウトシティでの出来事だろうか。神徒レジーナの最後に立ち会うことになった、あの日だ。
そのレジーナによってユキは助けられた。
もしもあのとき、あの場に居合わせたのがレジーナでなかったなら、ユキも今ごろは墓標の下に眠っていたのかもしれない。
そう考えると、あの出来事はまさに、奇跡的な偶然が重なった出来事といえた。
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