終章

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 試作型ラグナロクが放たれたとき、もしもあのとき、ハンスが生きることを諦めていたなら、おそらく魔法無力化の能力を使うことを思いつくこともなく、そのまま大地の塵へと変わっていたのだろう。  いや、それ以前に、あのアルデウトシティの中心地で、たまたまユキと遭遇していなかったら、ユキを助けることすらもできなかった。  あそこで偶然、ユキと遭遇して、そしてラグナロクを無力化して、さらに満身創痍となったレジーナに発見され教会に運ばれたことによって、ユキは命を取り止めることができた。  もしも、そのどれか一つでも狂っていたら、あるいは――。  いや――と、ハンスは考えをあらためた。  偶然などではないのだ。たぶん、これらの出来事は、偶然では片付けられない。この世界には『ノアの意志』が存在するのだから。  戦地に入る前、ルカは『人間の意志』という思想を説いた。人間の行動だけは、『ノアの意志』に捕らわれることなく、その人間個人の意志によって決定される、という考えだった。  ただ、今回の一連の流れは、個人の意志でどうこうできるような問題ではない。  ハンスがいくら願おうと、ユキがいくら願おうと、ラグナロクの発動は止まらなかっただろうし、ハンスが咄嗟に魔法無力化に気づいたことも、それは一瞬の閃きなのであって、ハンスの意志とは違っていた。  つまり、一連の出来事は『ノアの意志』によって引き起こされたと断言してもいいはずだ。  ハンスとユキが遭遇し、試作型ラグナロクを魔法無力化によって防いで、レジーナによってユキが助けられた。  このすべては、『ノアの意志』によって定められた運命だったのだとしたら――。  ハンスとユキは――『ノアの意志』により、今後を生きる運命を与えられたのだ。  そう考えて間違いはないだろう。  この一連の流れを、まったくの偶然の連続だというのは、やはり相当な無理があるといえる。そこには人外なる力が働いていても不思議ではない。  世界の決定。『ノアの意志』。決定事項。与えられる運命。  二人はノアによって、生きるという決定を下された。その運命を与えられた。  そこには必ず、何かしらの意味があるに違いない――。
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