一章 未完の新兵器

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※※※  この日、普段は訪れることの少ない、魔研の棟の三階にある『魔装管理課』を、ハンスは訪れていた。  その中の、受付から離れたところにひっそりと設置してある長椅子に座って、ぼんやりと時間を持て余しているのだった。  目的はフィラクテリのメンテナンスだ。  といっても、なにもどこか調子が悪いというわけではない。  次の出撃に備えて、内部に保有している魔力量を限度まで補充しておこうと考えて、ここにやってきた。  おそらく、これがアルディス領土内で行われる、もっとも大規模な戦いとなるだろう。  最終決戦だ。  そう思いたい。  生きるか死ぬか――。  個人レベルにとどまらず、アルディスという国自体が、生きるか死ぬかの分岐点を迎えている。これはそういう戦いだ。  もしアルデウトシティでの『首都防衛AL作戦』にアルディス軍が敗北すれば、それはすなわちアルディスの敗戦を意味する。  戦力の薄くなった首都アルディストンは、ほとんど無抵抗のままでゼノビア軍に陥落させられ、さらに多くの死者が出るだろうと思う。  そういう意味での、最終決戦なのだ。  だが、そんな未来は許されない。簡単に認めるわけにはいかない。  だからこそ、こうして最善の策を取っている。戦いに悔いを残さないためにも、できることはすべてやる。  首都付近では、シェイドからの十分な魔力供給があるため、通常であればフィラクテリは携帯すら不必要ともいえる。けれどこの最終決戦では、何が起こるかわからない。  もしかすると、ゼノビア側がアルディストンへの奇襲を仕掛けてきて、シェイドの働きが失われるという可能性もゼロというわけではない。  その可能性が一パーセントでもあるというのなら備えておくべきだ、というのが今のハンスの考えだった。
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