終章

13/21
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/310ページ
「覚えてたのか?」  たしかに、四日前の残秋十五日がハンスの誕生日だったが、それをユキと最後に祝ったのは、他ならぬ戦争前のロディの村でのことだ。  自分自身ですら、その記念すべき日を忘れていたくらいだ。故郷を追われたその日から、年齢というのは、ただ一年ごとに増えていく数字でしかなくなった。  誕生日の話を他人とすることがなくなったのだ。 「覚えてるよ……それくらい……」  恥ずかしそうに、ユキは頬を染めた。  ユキからの贈り物――ライキリのお礼という理由はわかったが、誕生日まで覚えてくれていたとは思わなかった。  なぜこのタイミングなのか、と、すぐには理解が追いつかなかったが、それなら合点がいく。 「ほら、ハンス。はやく~」  腕を伸ばしたまま、焦れたように、照れたように、試すように、ユキはいった。  いけない、衝撃のあまり受け取るのを忘れていた。  ユキからそれを手渡される。思っていたよりも重かった。長くてほっそりした物かと思っていたが――。  ハンスは、その物を包んでいる緑の布を取り去った。 「これは――」  黒い光沢を放つ鞘と、そして、同じく黒色を貴重としながらも、金属特有の銀の光沢を放つ柄が、そこにあった。 「魔剣……か?」  正式には抜かなければ魔剣かどうかの判断はつかないが、魔装武器が標準的な現代のアルディスでは、剣のほとんどは魔剣に該当する。これもそうに違いない。 「そうだよ。バジルさんのお手製」 「バジルさん? ――あ、だからあの日っ……!?」  ようやく理解した。  ユキがあの日にバジルの店を訪れていた訳を。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!