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「覚えてたのか?」
たしかに、四日前の残秋十五日がハンスの誕生日だったが、それをユキと最後に祝ったのは、他ならぬ戦争前のロディの村でのことだ。
自分自身ですら、その記念すべき日を忘れていたくらいだ。故郷を追われたその日から、年齢というのは、ただ一年ごとに増えていく数字でしかなくなった。
誕生日の話を他人とすることがなくなったのだ。
「覚えてるよ……それくらい……」
恥ずかしそうに、ユキは頬を染めた。
ユキからの贈り物――ライキリのお礼という理由はわかったが、誕生日まで覚えてくれていたとは思わなかった。
なぜこのタイミングなのか、と、すぐには理解が追いつかなかったが、それなら合点がいく。
「ほら、ハンス。はやく~」
腕を伸ばしたまま、焦れたように、照れたように、試すように、ユキはいった。
いけない、衝撃のあまり受け取るのを忘れていた。
ユキからそれを手渡される。思っていたよりも重かった。長くてほっそりした物かと思っていたが――。
ハンスは、その物を包んでいる緑の布を取り去った。
「これは――」
黒い光沢を放つ鞘と、そして、同じく黒色を貴重としながらも、金属特有の銀の光沢を放つ柄が、そこにあった。
「魔剣……か?」
正式には抜かなければ魔剣かどうかの判断はつかないが、魔装武器が標準的な現代のアルディスでは、剣のほとんどは魔剣に該当する。これもそうに違いない。
「そうだよ。バジルさんのお手製」
「バジルさん? ――あ、だからあの日っ……!?」
ようやく理解した。
ユキがあの日にバジルの店を訪れていた訳を。
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