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ユキは笑顔で、両手を身体の前で振った。
「いいよ、そんなの。ライキリのこともあるし、それに私、パラディンだよ?」
「そ、そうだよな。俺より……持ってるもんな」
恥ずかしい話ではあるが、おそらく任務内容から察するに、ナイトとパラディンの差は大きいのだろう。
「私は……普通に生活ができればそれでいいの……。贅沢な暮らしがしたいわけじゃないし、貴族に憧れてるわけでもないし」
潔いまでに無欲だった。むしろ不健全ではないかというくらいに。
ただ、その気持ちはわかる。あの戦争で生き残った瞬間から、命があることだけで幸福だと思えるようになった。
「まあな、俺も同じようなもんだ。ただ、将来的に戦いから離れるなら、今のうちに蓄えておきたい気持ちはあるけど」
「へえ、ハンスって案外、堅実だね。えらいえらい」
「からかうなよ……」
「じゃあ将来は、ハンスに養ってもらおうかなあ……?」
ユキは上目遣いをする。どきりとするほどに、強烈なやつを。
「そ、それは……望むところだ。ユキがいいなら、俺は……」
いい終わる前に、ユキは微笑を浮かべた。そして、人差し指を、ハンスの唇の前まで伸ばした。
「それは、今は……ね――? 未来のことはわからないから……」
少しばかりの、もの悲しさを感じさせた。
なぜだろう。
たしかに未来は誰にも予想できないが――。
この話題は、広げるべきではないのか。
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