終章

18/21
12人が本棚に入れています
本棚に追加
/310ページ
「これでようやく、まともに任務に出られるよ。休戦中にしっかり成果をあげないとな。臨時の昇格の話も出てるみたいだし」  昇格については、パラディンの称号を与えられたからといって、手放しに喜べない事情もある。けれど、ユキの近くで切磋琢磨できるのならば、やはりまずはその場所を目指したいというのが本音だった。 「パラディンになれば、学園内でも気兼ねなく話せるな」  ハンスはユキを見た。ハンスは期待していた。きっとユキも、そのことを喜んでくれるだろうと、疑いもなくそう思っていた。  しかし――どうやらそれは違っていたようだ。目の前のユキは、何とも表現しがたい複雑な顔をハンスに向けている。その視線を少しだけ反らしながら。  ユキは望んでいないのか――?  ハンスが同じパラディンに昇格することを。 「ハンス――私」  ユキが何をいおうとしているのか、咄嗟にその内容は想像できなかった。しかしあまり好意的ではない雰囲気だけはわかる。  ユキは真面目だ。だからこそ、軍に所属しているうちは、ブレイバーであるうちは、あまり接近しすぎないほうがいいと、そう考えているのかもしれない。  そんな結論がようやく、この瞬間に生まれた。 「いや、違うんだよ。別に馴れ合おうってつもりはないんだ。――でも、近くにいることで互いのためになることだってあると思うから――」 「ハンス、違うの」  そこでユキが口を割る。  違うというのは、何に対する、違う、なのだろう。  ハンスはユキの言葉を待つことにした。まずは話を聞かなければ、正しい答えにはたどり着けない。 「ねえ、ハンス。私が神徒レジーナ様に助けられたときのことは覚えてるよね?」 「ああ、それは、忘れるわけない」  忘れたくとも、もう不可能だ。
/310ページ

最初のコメントを投稿しよう!