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「これでようやく、まともに任務に出られるよ。休戦中にしっかり成果をあげないとな。臨時の昇格の話も出てるみたいだし」
昇格については、パラディンの称号を与えられたからといって、手放しに喜べない事情もある。けれど、ユキの近くで切磋琢磨できるのならば、やはりまずはその場所を目指したいというのが本音だった。
「パラディンになれば、学園内でも気兼ねなく話せるな」
ハンスはユキを見た。ハンスは期待していた。きっとユキも、そのことを喜んでくれるだろうと、疑いもなくそう思っていた。
しかし――どうやらそれは違っていたようだ。目の前のユキは、何とも表現しがたい複雑な顔をハンスに向けている。その視線を少しだけ反らしながら。
ユキは望んでいないのか――?
ハンスが同じパラディンに昇格することを。
「ハンス――私」
ユキが何をいおうとしているのか、咄嗟にその内容は想像できなかった。しかしあまり好意的ではない雰囲気だけはわかる。
ユキは真面目だ。だからこそ、軍に所属しているうちは、ブレイバーであるうちは、あまり接近しすぎないほうがいいと、そう考えているのかもしれない。
そんな結論がようやく、この瞬間に生まれた。
「いや、違うんだよ。別に馴れ合おうってつもりはないんだ。――でも、近くにいることで互いのためになることだってあると思うから――」
「ハンス、違うの」
そこでユキが口を割る。
違うというのは、何に対する、違う、なのだろう。
ハンスはユキの言葉を待つことにした。まずは話を聞かなければ、正しい答えにはたどり着けない。
「ねえ、ハンス。私が神徒レジーナ様に助けられたときのことは覚えてるよね?」
「ああ、それは、忘れるわけない」
忘れたくとも、もう不可能だ。
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