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「分かりやすくいうとね。そういうことなの。化神に宿された神なる力は、失われることなく続いていかなければならない。たとえば、記憶なんかもそう。化神が見てきたこと、感じたこと、果たしたこと――それらは全部、次の世代へと引き継がれていくべきもの……。そして――」
ユキはゆっくりと、教会の最先端にある、女神アイリスと魔王リエスの像へ向かって足を進めていく。
『ノアの意志』を遂行するために、ノアによって間接的に生み出された、二つの神だ。
それがアイリスとリエス。絶対なるノアの神――。
化神とは、その神なる魂を内に宿した者――。
「レジーナ様の、その神なる力は今、私の中にある」
一瞬の沈黙が落ちた。
この教会の空気がすべて凍りついたように。
「な……?」
何だって?
「何でユキに……。いくらパラディンだからって――」
いや、そうではないのだ。
ようやくというべきか、今さらになってというべきか、ハンスは事の真相にたどり着いた。
あのとき、か――。
あれには、そういう意味も含まれていたのか。
「レジーナ様に命を救われたのと同時に、化神としての力みたいなものを、ユキは受け取ってしまったのか……」
たしかにあのとき、レジーナは何か、意味深な言葉をユキに対してかけていたように思う。その内容そのものは、もうはっきりと覚えていないのだが、それはいわば、ユキに対する最終確認だったのだろう。
命を助けられるのと同時に、化神の力を引き継ぐことを選ぶか――。
それとも、そのまま死を選ぶのか――。
二つの選択肢を、ユキは与えられた。
それを選び取れ、と。
レジーナはあのとき、ユキに投げかけたのだ。
そして――。
ユキは前者を選択した。生きることを選んだ。化神としての力を引き継ぐことを選んだ。
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