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単純に用心深い性格だから、という理由もあるのだが、何よりそういういざという場面に出くわしたときに、準備を怠っていたことを後悔したくないのだ。やはり悔いは残したくない。
仮にそれで一パーセントの綻びを生んでしまうというなら、その綻びは潰しておくべきなのだ。できることはすべてやっておきたい。ハンスはそういう性分なのだった。
とはいえ、充填作業には時間がかかる。受付したときの話によると、一時間程度はかかるようだ。
というのも、やはりハンスと同じように、決戦を前に下準備をするという依頼が増えているかららしい。だから、普通なら十数分くらいで終了する作業に時間を取られてしまっている。
フィラクテリを預けて、この長椅子に腰かけたのがほんの十分前ほどなので、まだ始まったばかりなのだ。
まだまだかかる。かといって、時間を潰すにも他に予定がない。
それに一時間というのも中途半端な長さだった。どこかに行くにしても、わりとすぐに戻ってこなければならなくなる。
さて、どうしようか――。
「あら」
そんな声がすぐそばでしたので、ハンスは反射的に顔を上げた。
そのときは、声が自分に向けられたものなのかどうか半信半疑だったが、目の前にあった顔を見て、その疑いは消えた。
丈の長い白衣を着た、金髪碧眼の少女の姿が、そこにはあった。
「シャーロットか」
魔研の研究員であり、さらにはブレイバーでもあり、そしてソフィとは貴族どうしの友人でもある、才色兼備な彼女であった。
これがハンスの持つ、シャーロットという女の子の印象だ。
そして、白衣に身を包んでいるということは、今は研究員としての時間なのだろう。
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