一章 未完の新兵器

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「ああ、まあな。――ちょうど、学園内は手薄だったから……」  かくいうハンスも、その日は別の任務があって、学園にはいなかった。戦争中であるがゆえに、強者たちは皆、外へ駆り出されているのだ。  たとえば、ベルトラムやシェイラや、そしてユキのような、パラディンの部隊は軒並み不在となっている。  まるでそこを狙ったように、起きた事件だった。偶然なのか、必然なのか。もしも、それらブレイバーの活動情報が外部に漏洩したために狙われたというなら、穏やかではない事態だ。 「死傷者も多数出たようで」  ハンスは無言で頷いた。  学園内部で交戦が行われ、そして死傷者が出た。  ハンスはその片付け作業に参加してはいないが、聞いた話によると、建物の損壊と同時に、無念のブレイバーたちの鮮血があちこちに飛散していたという。想像しただけでも、おぞましさを覚える光景だった。  仮面の人物――カルテノの森で、最初に現れたほうの仮面は、ユキでさえも退けたほどの実力者だった。  二度目の邂逅は、祝賀祭の夜だった。そのときの仮面は、もしかすると女性の可能性もある。その第二の仮面も、ユキと同等かそれ以上の実力を備えていた。  そして今回が三度目だ。これまではなかった死者までが出てしまった。  今後は本格的にブラックリスト登録されて、アルディス各地に警戒が促されると思われる。持ち去られた神器の行方も含めて、だ。 「魔研のほうは無事でよかったよな。ここがダメージを受けていたら、それはそれでまずかっただろうし……」  ふと思いつきで口にしたようなものだったが、シャーロットは神妙な面持ちで首肯した。 「それは、実はここでも議論になったんです。侵入者はなぜ、アルディス軍の核ともいえる、魔法を潰しにこなかったのか――。たしかに神器は国宝とも呼べる品ですが、アルディスの戦力を落とすためには、魔研を潰すほうが合理的であることは間違いありません。――では彼らが、そうしなかった理由を考えると、少し得たいの知れない結論にたどり着きます」  シャーロットは表情を引き締めた。
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