序章

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 しかし、それだけの戦力を敵陣へと繰り出したということは、反対にゼノビア本土は、現在は手薄となっているはずだった。  仮にアルディスが玉砕覚悟で攻め込めば、一定の戦果をあげることは可能だろう。  だが、ゼノビア側もそれは百も承知のはずだ。  逆にいえば、今のアルディス側には、攻勢に回るだけの余力がないと、彼らにそう判断されたに等しい。  それはまさに事実だった。  もし今、アルディス軍が国内の守りを疎かにすれば、確実に国は倒れる。アルディス側に攻め込む余裕がないことを理解して、ゼノビアは一気呵成の攻撃を敢行するのだ。  だからこそ、危機的なのである。ゼノビアはここからの短時間で、戦争を終わらせにこようとしている。  もし、アルディス軍が起死回生を考えるとするなら、とにかく彼らの自走兵器を撃破するしかない。  それができれば、敵の戦力は格段に減少する。仮に別の兵器を準備しているとしても、出撃には時間を要するはずだ。  そうなれば、まだチャンスはある。可能性は低くとも、まだ敗北が決まったわけではない。  そのための化神投入なのだ。  彼らの力を信じて、戦うしかないのだ――。  飲み物のカップを、隣接する給湯室で片付けてから、ユキは部屋に戻るために廊下に出た。あとは書類を処分すればようやく帰宅することができる――。  さすがに、幹部ばかりの会議は気疲れしてしまう。正直なところ、早く部屋に帰って休みたい気分だった。  そんな心境のまま、煌々と明かりの灯った会議室に、再び足を踏み入れた。
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